*** 落書きⅨ ***


*** 道草 ***

あの頃 学校からの帰り道
歩道と車道を分けるライン
平均台を渡るように
はみ出したら落ちると
笑いあっては道草喰った
遠くに大学の時計台
その向こうに見える夕焼けは
明日を照らす赤だった

急がないで あわてないで 一歩ずつ…
ぼくらは確かにそうやって歩いてた 
なのに…
失敗したら全てが終わる そう思い
他人の眼ばかり気にする毎日
今 ぼくはしたくもない道草をしてる


あの頃 学校からの帰り道
鼻唄がわりのリコーダー
誰に聞かせることもないメロディー
片手で鳴らしたソラシドに
あわせてトンボが舞っていた
みんなに『帰宅』を促す四時の
『夕焼け小焼け』の音楽は
明日に続く子守歌

笑わないで 茶化さないで 聞いてよ
ぼくらは 確かに生きるのが下手だけど
これまで奏でてきたものは
間違っちゃいないと思ってる
大切なのはただ一つ
他人に聞かせることじゃない
自分が聞きたい音かどうかだ

急がないで あわてないで 一歩ずつ…
ぼくらは確かにそうやって歩いてた 
なのに…
失敗したら全てが終わる そう思い
他人の眼ばかり気にする毎日
今 ぼくはしたくもない道草をしてる
( 2022年の作品 )

*** Silent ***

春の陽射し 花筏

岸辺に凭(もた)れる桜並木

あの日あの時と同じ場所なのに

きみの声が聞こえない

ぼくの声が届かない

きみは何も変わってないのに

変わり過ぎてるこのぼくには

自分自身が許せない

silent  so  silent

こんなぼくが 今きみに

何を伝えられるのだろう

 

秋の夕暮れ 紅に染まり

ざわめく街のクロスロード

あの日あの時と同じ場所なのに

きみの声に気づけない

ぼくは後ろを振り向けない

きみの微笑みがそこにあるのに

足を止めないこのぼくには

その手を繋ぎとめられない

silent  so  silent

こんなぼくが 今きみに

何を伝えられるのだろう

 

同情と優しさと 親愛と憐れみと

時の流れの中での 穏やかな混濁

 

silent  so  silent

今ぼくはきみに

何を伝えられるのだろう

 

今ぼくはきみに

何を伝えられるのだろう

 

 

( 2022年の作品/ドラマ『silent』より )

*** 雪溶けのシベリアに寄せて ***

マリンカの香り 覚えていますか
白いシベリア平原に
群がる香りを 覚えていますか
異郷の地へ旅立ったあなたが
私のために
一輪 封筒に入れて
はるばる日本へ届けてくれた
あの香りですよ
小さいけど
ほら、私みたいに力強いって
あなたは手紙にこの花添えて…
なのに
なぜあなたが散ってしまったの?
異郷の地で たった一人で
寂しく花びら落としたの?
信じられない 信じない
信じられない 信じない
心の叫びを繰り返し
私はいつまでも待っています
あなたの帰りを…
追伸.  私 髪を切りました
( 1978年の作品 )

*** 寂光流離(さすらい) ***

花の都に 男子あり
はや 二十歳にして
心 朽ちたり
既に 道塞がる
なんぞ白髪を 待たん
( 1978年の作品 )

*** Star  Light    ***

幼い頃から
他人(ひと)に優しくされるのが
嫌いだった僕は
いつも 一人ぼっちだった
だから
自分で歌った子守唄
聞いて眠る一人芝居
いつか眩しい舞台(ステージ)に
立つことを夢見てた
夜空の星たちが
幼心(おさなごころ) 照らしてた
いつも悲しい僕の歌
誰も聴いてくれなくてもいい
僕が叫ぶ 星が応える
僕にはこれが
一番似合ってる
悲しい時 僕が歌う
悲しい時 星が瞬く
いつも僕に光をくれた星たち
決して 決して
それは眩しくはないけれど
何故か はにかみたくなる様な
優しさくれた スターライト
優しさを恐れたこの僕に
優しさくれた スターライト
( 1978年の作品 )

*** 試験管ベビー ***

やがて父の顔も 母の顔も
知らない子供が生まれる
恐るべき先天性遺伝を秘め
赤の他人に育てあげられる
やがて『孤児』の名称は消え
『孤児院』がなくなる
その赤ん坊は物言わず
ただ薄気味悪く笑うだけ
誰が作った子だ?
この子は人間か?
それとも…
( 1979年の作品 )

*** 南の旅路 ***

とある5月の日曜日
しとしと雨に見送られて
南へ南へと旅に出ました
僕らの船の頼りなさといったら
ジャイアンツの小林投手の身体みたいで
吹けば飛ぶような船でした

翌朝 月曜日五月晴れ
僕らは待望の日向港へ
どうにかこうにか着きました
九州の地への第一歩の印象は
九州の地面はやけにぐらぐら
揺れることでした

宮崎交通のガイドさんは
薩摩おごじょの美人さん
ガイドさんの歌う歌も
時代とともに移り変わるものでございまして
振り付けはないわよって あらかじめ断って
『ペッパー警部』歌ってくれました

それから山にも登りまして
いや登るというより 這いずり上がりまして
頂上から桜島の噴火も見えまして
それを見てあれはソ連での核実験なんだと
真面目に言うのが あぁ城北生の
真実の姿なのでございます

あっというまに日は過ぎ去りて
いよいよ涙のお別れ日
絶対ガイドさんまで届かせるんだと
意気込んで投げたテープが海の中にポチャリ
結局ガイドさんまでたどり着いたのは
テープの芯だけでした

さよなら さよなら よく揺れた九州
さよなら さよなら よく泣いたガイドさん
さよなら さよなら さよなら・・・
(1977年の作品)

*** 針と糸 ***

針と糸と母さんと
電灯の下で 揺らいでる
時間が早足で過ぎていくのも知らないで
今日も針を持つあなたの
目元に深いしわ 見つけた
母さんの人生は かすり模様
あなたの傍には いつも針と糸

けれど いくつ年重を
増やしてもあなたの姿と針と糸
変わらない心の清しさ
今日も針を持つあなたの
姿に涙するわたしです
母さんの人生は かすり模様
あなたの傍には いつも針と糸
 
(1976年の作品)