*** 落書きⅧ ***


*** 僕は僕なりに ***

人見知りの僕は 幼い頃から
人前で話すのが苦手だった
だからきみと話しているあいつが
いつもとても羨ましかった
あいつがきみに指輪を渡した日
生まれて初めてバーボンを飲んだ
熱い何かが 心に沁みた

どんなに自分では頑張ってみても
かなわない望みってあるよね
だから僕は僕なりに
ありきたりの暮らしを
日々繰り返して行くつもり
それはそれで それなりにいい

いつも臆病な僕は 叩いた石橋を
その上叩いていつも壊していた
だからきみから「好き」と告白されても
思わず「嘘でしょ」と言ってしまった
涙を拭きながら遠ざかるきみを
あの日 何も言えずに見送った

どんなに自分では頑張ってみても
伝えきれないことってあるよね
だから僕は僕なりに
ありきたりの暮らしを
日々繰り返して行くつもり
それはそれで それなりにいい
( 2023年の作品 )

*** 今 この部屋にあなたはいない ***

窓の外 音のない風景
路肩の水溜まりに広がる波紋
それを見届けて溜め息をつく 
それが雨の日の朝の私のルーティン
墨汁のような群雲が心の奥に垂れ込める
二度寝を決めた左手が 
勢いよく カーテンをひく
そして光を失ったこの部屋で
もう一度欠伸を噛み殺す

微睡(まどろ)みの奥で微笑むのはだれ?
優しい嘘をつく時のあなた?
ただ一つ確かなこと それは
今 この部屋にあなたはいない

窓の外 音のない風景
下校途中のふざけ合う小学生
呆れたパントマイムに溜め息をつく
それが夕暮間近の私のルーティン
昼と夜の狭間の空が 赤から黒へ変わる時
遅ればせながら1日を
ごそごそと 生き始める私
そして明かりをつけたこの部屋で
もう一度欠伸を噛み殺す

微睡(まどろ)みの奥で微笑むのはだれ?
優しい嘘をつく時のあなた?
ただ一つ確かなこと それは
今 この部屋にあなたはいない
( 2022年の作品  )

*** ものがたり ***

「いつかきっと…」そう胸に刻み込んだあの頃
白いドレスに身を包んだ きみの姿を追って
何もかもが新しい 真っ白な頁開いたような
そうさ これから始まるんだ
きみとぼくの ものがたり

May  you  be  happy  forever
May  you  be  happy  forever
寒い冬が終わり そして暖かな春が来る

あらすじさえわからない
たった一度きりのことだもの
消しゴムが効かないから
失敗はドンマイね
カッコいい題名なんていらないけれど
たったひとつ大事なことがある
それはいつでも このものがたりが
明るく 楽しく そしてさわやかであること

May  you  be  happy  forever
May  you  be  happy  forever
寒い冬が終わり そして暖かな春が来る

やがてこのものがたりには
新しい人物が登場する
奴は僕を「パパ」きみを「ママ」
そう呼ぶにちがいない
そこから新たな展開が
生まれるかもしれないけれど
それでもやっぱり ものがたりは
きみとぼくとが主人公

May  you  be  happy  forever
May  you  be  happy  so  forever
寒い冬が終わり そして暖かな春が来る
( 1989年の作品 )

*** 女主人公(ヒロイン) ***

拍手の余韻を 消さないまま
静かに幕が 閉じていく
きみを照らした 眩しい光線(ライト)が
またひとつ 仕事を終える
あとには 一人の
女主人公(ヒロイン)としてだけの
作られたきみの微笑(ほほえみ)が
ステージに灯る
きみの素顔見たさに 期待して来た僕には
気になる今日のきみの唇
燃えるようなファイヤーレッド
なんて悲しい配役(パート)なんだろう
「自分」らしさを
影も形も無くしてしまうなんて
誰もいない客席見つめ
ステージで一人 今
きみは何を考えているの?
今しがたの 熱いラストシーン?
散りばむ光(ライト)? それとも…
女主人公(ヒロイン)への名残惜しみ?
僕からきみへ 一言 いいかな?
最後の光線(ライト)が消えた今
不似合いなルージュは もうおよしよ
そして 心のどこかに陽射しを感じたら
そんな時だけ 微笑えむがいい
僕にとって きみはいつだって
女主人公(ヒロイン)なのだから
( 1978年の作品 )

*** ましろノート ***

17年 俺が守り続けた
たった一つの宝石だと
君の兄貴は僕に言った
初めからそんな事
わかりきってる僕だから
きみに触れることも
出来ないのは至極当然なのさ
真っ白なノートに
安っぽいインクを垂らす役なんか
僕はごめんだよ
あまりにも美しい空を見上げた時
そんな空とは裏腹に
妙に気持ちが滅入る時が
きみにだって あるでしょ?
こんなきれいな空が
あっていいのだろうかなんて
心配する僕を きみは笑うかい?
笑われたって 気にはしないよ
ただ 幸せな時間を持ち過ぎるってことが
逆に 不幸を呼ぶことがあるってことを
忘れないでほしいな
( 1978年の作品 )

*** 黄昏色の国 ***

今はもう僕には何も残らず
黄昏色に染まる空を見て
きみを 僕から追い出そうと
石をいくつか拾っては 
真っ赤な太陽に向けて
思い切り投げつける
なんできみみたいな 大事な人が    
あんな遠くへ行ってしまったんだろう
きみはもう 黄昏色の国へ
行ってしまったんだね

今はもう僕には言葉も生まれず
黄昏色に染まる海を見て
きみの後を追いかけようと
服を脱ぎ捨てて 水平線に向けて
思い切り泳ぎ続ける
たとえきみのいるところに 
たどり着かなくても
きみに少しでも 近づいて
あの輝く 黄昏色の海を見たいんだ

今はもう黄昏色の 
空も海も波も消え果てて
浜風がひとりぼっちの 僕を吹き抜ける
きみの姿も足音も
見ることも聞くことも出来はしない
たとえきみのいるところに 
たどり着かなくても
きみに少しでも 近づいて
あの輝く 黄昏色の国を見たいんだ
たとえきみのいるところに 
たどり着かなくても
きみに少しでも 近づいて
あの輝く 黄昏色の国を見たいんだ
( 1977年の作品 )

*** 季節外れのサンタクロース ***

幼いころからの夢だったの
真っ白なウェディングドレス
その夢を叶えてくれたあなたが横にいる
この恐いくらいのときめきが
あなたにわかるかしら?
あなたの顔が 不意に滲んで
ことばに出来ない
だから せめて 今は…
精一杯の感謝を込めて
あなたに あなたに
「ありがとう…」 

あなたはいつでも子供たちに
夢を配り歩いて
一年中 毎日がサンタクロースのよう
でもお願い 忘れないでね
二人のささやかな夢を
育てていくことも
あなたと私の
1987 1月25日 それは…
あなたと私が主人公
( 1987年の作品 )

*** 卒業 ***

1年前のあの日のことをきみは
覚えていてくれただろうか
あの日は確か薄曇り
僕の最後の中学生の日 卒業式の日
またいつか会えたなら
会おうねという言葉にきみは不満顔

あれから今 1年がたって
今日はきみの卒業式の日
蛍の光が聞こえます
きみもまた僕達の仲間入り 高校生になる
春の陽射しを浴びて
涙を流すきみに 心からおめでとう

涙で顔を洗おう 
そして今 想い出にさようなら
 
(1977年の作品)