*** 落書きⅥ ***


*** 雁木坂 ***

去年の今頃きみと上ったこの坂道を    
ぼくは今ひとりっきりで上っていく    
歩き慣れたこの道を 二度も転げ落ちた    
ぼくのこときみは笑っているのかい    

歌を歌えぬさびしさと 
きみを追えない悲しみと    
歌を歌えぬ苛立ちと 
きみを追えない苦しみと 
 
坂の上には あの日と同じ 
青い空と真綿雲    
たったひとつ違うのは 
きみがいないだけ    
   
歌が歌えぬむなしさと 
きみに会えない切なさと    
歌が歌えぬ苛立ちと 
きみに会えないくやしさと    
   
坂の下には暮れなずむ街 
ポプラ並木と吹きぬける風    
春遠いぼくにとってそれは 冷たすぎて   
 
振り返るのはぼくにとって 
つらすぎるから前だけ向いて    
新しい何かがある明日を 見つめていく
( 1980年の作品 )

*** 風花舞 ***

私の胸に顔埋める 
悲しみ抱いて私は一人窓を開く    
あなたのことだけ考えて 
暮らしてきた私だから    
季節が衣を変えるのさえ 
気づかなかった私    
手のひらに一片 あわれ風花    
私の落とした一粒の涙に 
体震わせてにじんで消えた    
   
私に背を向け歩み去る 
幸せ見つめ私は一人窓を閉じる    
あなたの優しさ追い続け 
暮らしてきた私だから    
枯葉が私を埋めるのさえ 
気づかなかった私    
手のひらに一片 あわれ風花    
私の忘れたささやかな愛の 
かすかなぬくもりに消えていく    
 
( 1980年の作品 )

 

*** 昔話 ***

狭いこの街に暮らすこのぼくが    
たったひとりのひとを選んだ    
広い世界のほんの片隅で    
ぼくが探し そしてめぐりあったひと    
それはとても偶然 だけどとても自然に    
ぼくの前にきみが立っていた    
今ぼくの瞳に映るのは 
きみの眩しいその姿    
それだけさ だけさ だけさ        
   
女のひとなどと話した事のないぼくが    
たったひとつぶの涙に打たれた    
きみがぼくにぽつりぽつり
聞かせてくれた    
遠い遠いきみの昔話    
せめてなぐさめようと なれない言葉を    
使いながらきみを見つめる    
早くきみに微笑が戻る事を    
ぼくは待っているのに 
いるのに いるのに
( 1981年の作品 )

*** おやさと ***

燃え上がる夏の日 
目の前には揺れ立つ陽炎    
でも ぼくの心の中には 
なつかしい香りの風が吹く    
生きとし生けるもののすべてが 
ここで生まれ そして育った    
「お帰り・・・」すれ違うたびに 
人々の心が通う    
たおやかな微笑(えみ)がこぼれる 
ここがおやさと わがふるさと        
   
初めての景色さえも 
どこかで一度見たような気がする    
移り行く月日さえも 
ここでは止まっているようだ    
人間(ひと)の歩みをじっと見つめて 
変わらぬ昔も そして今も    
「お帰り・・・」すれ違うたびに 
人々の心が通う    
穏やかな微笑(えみ)がこぼれる 
ここがおやさと わがふるさと    
 
( 1981年の作品 )

*** グレーテルの悩み事 ***

のままでずっといるって事は 
やっぱり不自然なのかしら
ヘンデルはもう お菓子の家を
とっくに探すのやめました
明日からは生命保険の
セールスマンをやるそうです
過去は過去の事 そして今は今なんだと
そうきっぱりとわりきって
どうして誰もが現実ばかり 
やみくもに見つめてしまうのかしら
昔の夢はどうしたの?
あの大空を飛ぶ夢は  
ねぇヘンデル

大人になって夢を持つなんて 
やっぱりいけないことかしら
私ももう お菓子の家を 
昨日探すのをやめました
明日からは銀行の窓口で
精一杯の笑顔を振りまくつもりです
過去は過去の事 そして今は今なんだと
そうきっぱりとわりきって
なぜか私も現実ばかり 
やみくもにみつめてしまうこの頃
仕方がないわ 年齢(とし)も取ったことだし
これもきっと時代(とき)の
流れのせいよね
( 1981年の作品 )

*** 深雪 ***

春日野の裾を 染めし白雪を        
きみは手に盛り頬にあて 
細いため息つく        
静けさをきみは怖がるように 
氷の張る水の面に 小石を投げ入れる        
こんなに寒い日なのに 
きみに 僕が言わなければならない言葉    
    
しんしんと舞う銀の星 
せめてぼくたちの
想い出の足跡は消さないで
      
瀬を早み岩にせかるる瀧川 
われても末に会えること 祈るきみの瞳        
二人でともした走馬燈の灯が 
今ぼくの目の前に 鮮やかに浮かぶ        
こんなに寒い日なのに 
きみに 僕が言わなければならない言葉 
       
しんしんと舞う銀の星 
せめてぼくたちの
想い出の足跡は消さないで

しんしんと舞う銀の星 
せめてぼくたちの
想い出の足跡は消さないで 
( 1981年の作品 )

***    初恋DIARY ***

日記の空白 消しゴムの跡
それは それは 私の儚い思い出
ページの上に うっすらと
残るひとつの名前 今
その一字一字を たどります

忘れられない数々の あなたとの思い出
今から思えば みんな過去の出来事
日記の空白 涙の涙の跡
それは それは 私の初恋の跡
 
( 1977年の作品 )